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安全にセーリングを楽しむために 〜 自然に対峙し、自らに向き合う〜
すでにご存知の方も多いかと思いますが、11 月中旬にクルージング中の艇から落水者が 発生し未だ行方不明となっています。昨年 5 月から一年半の間に、落水事故から死亡また は行方不明に至る重大事故が 4 件(JSAF 登録艇・クルーザーのみ)に昇ります。
悲しいニュースに接し、全てのセーラーが各々のセーリングに対しての取り組みを改め て見つめ直していただきたいと考えます。
<4 件の事故概要>
1.通常航行中(沖縄-東海レースリタイヤ後)に乗員が落水、死亡。(2012 年 5 月)
2.通常航行中(アリランレース参加のため回航中)に乗員が落水、死亡。(2013 年 5 月)
3.レース中(インショア・東京湾)に他艇との衝突が原因で乗員が落水、死亡。(2013 年 10 月)
4.通常航行中(クルージング中)に乗員が落水、行方不明。(2013 年 11 月)
重大事故防止=落水しないこと
ヨットでの死亡事故は、落水からしか起きえないと言い切ってもよいでしょう。
昨年来の落水事故の度に、ライフジャケットや落水救助方法などが話題の中心になりが ちですが、これは落水後の最後の手段であり「落水しないこと」が死亡事故の最重要防 止策です。
落水しないための取り組み
落水防止のための艇上でのセオリーやテクニック(例えば風上舷を通るとかまめにクリ ッピングする)は様々ありますが、これさえ行えば大丈夫といった魔法の方法論はなく、 基本に忠実であることにつきます。
また、艇上での行為の優先順位は状況によって細かく異なる事もあり、今回はセオリー やテクニックの話ではなく、セーリングに対する姿勢において改めて考えて欲しい2点を 記述します。
その1.スキルアップ
セーリングの装備や備品は、近年その素材も機能も著しく進化しています。道具は進 化して便利になりましたが、自身のセーリングスキルを恒常的に進化させようとしてい ますか?
落水事故を含め様々な海難事故に対する防止の最初の一歩は、セーリングスキルの向 上であるといえます。速く帆走する、どんな天候でも帆走できるといった帆走技術。天 候を読み取り天候を予測する技術。艇の装備や備品を使いこなす技術などなど、こうい ったセーリングスキルの向上を常に図っているでしょうか?
万が一のための落水救助訓練も重要ですが、万が一を起こさないための「セーリング スキルの向上=ヨットがうまくなる」ことこそ、事故防止の最初の一歩であり、かつ 最大の要素であるといえます。
その 2.自らに向き合う
セーリングの根本は(それがクルージングであれレースであれ)、他艇や他人との競 争ではなく、自然と対峙することです。
自然との対峙、それは自ずと自分自身との戦いでもあります。自身あるいは自艇(チ ーム)の現状スキルと航行プランを冷静に推し量ることが必要です。出航にあたり、人 数が少ない、あるいはせっかくハーバーに来たのだからと無理に乗艇していませんか? 悪天候だけど、他艇が参加しているから自艇も平気だという判断をしていませんか?時 には、出航の取り止めや航行プランの変更などの勇気ある判断が必要です。
また、長年ヨットやっている経験者は知識と体力のバランスを推し量れているでしょ うか?知識もあって若い頃にはできたことも、加齢に伴う体力低下により思うように体 が動かない場合があります。そして、悪天候などによる体力低下は、冷静な判断を妨げ ることにもなります。
セーリングは、「自分に真摯に向き合う」必要があることを忘れないでください。
自分を守るのは自分でしかない
4件の落水事故において共通している点は、落水者も同乗者もベテランセーラーである ことです。自然は初心者にもベテランにも、誰に対しても平等です。
セーリングスキルの向上は尽きることなく、初心者だけのものではありません。長年の 経験者であっても絶えず情報収集し、訓練し、スキルの向上を図ることが必要です。そし て、慣れからくる油断に気をつけなければなりません。
海原では、法律もルールも乗員や艇を守ってくれません。乗員や艇を守ってくれるのは、 自分自身と同乗の乗員でしかありません。安全な航行には、事前の充分な準備(ハードと ソフトの両面)と無理のない航行プランの策定が重要なことは言うまでもありません。
セーリングを楽しむために
どんなセーリングにも困難や危険が伴います。困難や危険があるからこそ、冒険心がく すぐられ、それを乗り越えていく醍醐味があります。日常的なデイセーリングにおいても、 危険が伴っていることを忘れてはなりません。
しかし、危険を恐れて挑戦することをやめてはいけません。ただし、無事に帰ってくる ことが冒険の基本です。そして、この基本が守られて初めてセーリングは楽しいものとな ります。
最後に
本書は通達や指導といった目的のものではありません。また、本書に書いてあることは 特に目新しいことではありません。全てのセーラーが、自身のセーリングに対する姿勢を 今一度真摯に考えていただき再び悲しい事故が発生しないため、と共に私自身への戒めの ために筆をとった次第です。
以上
2013年12月1日
公益財団法人日本セーリング連盟
外洋安全委員会 委員長:大坪明